ゲランドの塩を訪ねて

「ゲランドの塩」。日本でもよく聞かれる名前だと思います。その「ゲランド」とは、どこにあるのでしょうか?

「ゲランド」はGuérandeと書き、パリから西、ブルターニュ半島の付け根あたりにあります。Naokoの住んでいるサン・ナゼール市からは車で20分で行けます!

この「ゲランド」は実は町の名前なのですが、「ゲランドの塩」はゲランド市のみならず、周辺の市も含めて「ゲランドの塩田」と呼ばれる地域で生産されたものを指します。

内湾のようになっているところが、網の目のようになっているのが見えますか?これが塩田なのです。赤い線がゲランド市なのですが、その外側に見える網目状の部分でも「ゲランドの塩」づくりが行われています。

この網目の部分、上から見るとこんな感じになります↓(ゲランド市観光局のサイトより)。

天日干しで作られるゲランドの天日塩。

ゲランドでの海塩の生産は9世紀まで遡ることが可能です。17世紀前後には欧州中に輸出され商業的に活発であったのですが、19世紀半ばよりは岩塩や地中海の海塩との競争が激化する中、さらには冷蔵技術の開発により、「塩による食物の保存」が「冷却による食物の保存」にとって代われることで、塩の消費量が減り、同地における塩産業は衰退していきました。1970年代に入り、伝統的な塩づくりを守る動きが強まり、その後、農業共同組合の結成、品質ラベル取得や地理的表示登録などを取得、ゲランドの塩づくりは再び息を吹き返しました。現在でも伝統的な方法で天日塩が作られています。

 

6月、Takako とNaokoはこちらで塩づくりをされているThierry(ティエリー)さんを訪ねました。ティエリーさんは塩生産者として30年のキャリア。農業共同組合LES SALINES DE GUÉRANDEに所属されています。

天日塩の生産は、まず海水を貯水池に引き込むことから始まります。貯水池から更に濃縮池に引き込まれ、水分は蒸発され、塩分濃度の高い海水となって、最終的にオイエと呼ばれる80−100㎡程の広さの塩田に水が入り、ここで塩の採取が行われます。水の流れは塩の満ち引きを利用します。

塩の採取は夏場にしか行われず、その年の気候によりますが6月半ばー9月の半ばが目安です。塩の取れる量は気温、湿度、風の向きなど、正に自然の条件に大きく作用されます。「自然条件の影響を大きく受ける、だから塩の生産は農業に分類されんだ」と、ティエリーさんは語ってくださいました。

採れる塩は「Fleur de Sel塩の華」と「Gros sel粗塩」があります。尚、「Sel gris灰色の塩」は、粗塩が細かくしたものになります。

塩の華は、こんな道具を使ってとります。とても長い棒で、昔はこれが木でできており、とても重かったのだそうです。現在は炭素繊維から作る棒が付いています。炭素繊維は丈夫で軽量なことから、飛行機の機体製造にも使われている素材です。ほとんど機械を使わないゲランドの塩の生産は、こうした技術の力も手伝って、人の手による作業の持続性を可能としています。


それでは、ティエリーさんが塩の華をとりますよ!

スッ、シューッ、スッ…と、滑らかな動きで表面に浮く塩を採取されました。

「粗塩」は、水面に浮いているのではなく、水中の塩の結晶を採取するもの。これはあくまでも塩だけをとり、下の土には触ってはいけない、難しい作業になります。

採取の季節になると、アルバイトの若者たちが現地で働きます。中にはアルバイトの経験から塩の生産を仕事として選ぶ人もあり、ティエリーさんもかつてはそんな若者の一人でした。18才以上で、アルバイト期間中近隣に住む人であれば、やる気さえあれば誰でもできます。近隣に住む…が条件である理由は、その日の天候によって仕事の有無や開始時間が異なるため、それに臨機応変に対応できる人が必要とのこと。

こんな可愛い木の荷車も塩の生産で大活躍します😍。

塩づくりの現在の道具はもともとは多くのものは木で作られていたものが、生産者の負担を考慮して、プラスチック等の様々な素材に置き換えることで、軽量化されています。ですが、可能であればなるべく自然の素材も使い続ける、これが伝統を大切にするゲランドの塩づくりのスピリット。


採取された塩は塩田横に積み、水分をある程度飛ばします。その後倉庫に運び込み、引き続き水分を蒸発させた後に、不純物を取り除き、出荷されます。


塩田には他の「美味しいもの」も生えています。Salicorne(サリコーヌ)、Passe Pierre(パッス・ピエール)と呼ばれることもあります。日本で最も近いのはアッケシソウでしょう。

サリコーヌは海藻ではなく耐塩性のある植物です。そのまま食べると塩味がします。生のものをソテーをして付け合わせて食べると美味しいです。また、酢漬けにして瓶詰めのものも販売されています。


塩づくりを30年続けてきたティエリーさんですが、現在はフォトグラファーとしても活動をされています。塩づくりの仕事は夏の採塩だけではありません。秋から冬にかけては塩田の整備をし、春には生産を開始します。とても体力の必要な仕事なのです。

ティエリーさんは自然と共に生きるお仕事を続けられた後に、かつて勉強されていた映像に関連したお仕事を第二のキャリアとして選ばれ、数年後に向けてその準備を始められています。素敵ですね。

ティエリーさんの写真家としてのサイト:http://nb-studio.fr/